泌尿器科はどんな科?
疾患多様 気軽に受診を
泌尿器科とは一体どんな科であるのか、ご存じの方はいまだに少ないように思われます。戦前の日本では皮膚科と泌尿器科はいっしょになっており「皮膚・泌尿器科」として診療を行っていました。
そして戦後になってアメリカから近代泌尿器科学が入り、泌尿器科と皮膚科はそれぞれ独立、泌尿器科においては内視鏡を使った手術の分野でめざましい発展を遂げてきました。最先端の技術として手術用ロボット「ダヴインチ」を使った「ロボット支援手術」が前立腺がんに対して既に本県でもスタートしています。
とはいうものの、終戦後1946年から58年ごろまで日本では、公認もしくは非合法的に売春が行われていたため性病が多かった事もあり、泌尿器科=性病科、すなわち「下の病気、性の病気」という負のイメージが強く、特に高齢者の方の中にはまだまだ敷居が高く、受診しづらい科のようです。
泌尿器科では、男性および女性の尿路(おしっこの通り道)、および男性の生殖器の疾患を専門的に扱います。われわれが生きていく上で体内に生じた老廃物が尿として腎臓→尿管→膀胱→尿道を経由し体外に排出されますが、その機能がうまくいかない状態が泌尿器科の病気なのです。泌尿器科でよく扱う疾患について具体的に挙げれば、①膀胱炎 ②血尿、尿潜血 ③頻尿、尿失禁(尿もれ)④前立腺疾患(前立腺炎、前立腺把大症)⑤尿路結石(腎結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石等)⑤男性生殖器(ペニスや陰のう)の皮膚症状 ⑥こう丸炎、副こう丸炎 ⑦性病 ⑧男性の性機能障害(ED・勃起不全)⑨がん(腎臓がん、尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、陰茎がん、精巣腫瘍等)⑩副腎腫瘍 ⑪末期腎不全に対する血液透析、腎臓移植などがあります。
また、最近男性更年期障害としてマスコミ等で紹介され注目されている⑫LOH症候群の問い合わせも増えてきました。このように泌尿器科で専門的に扱う疾患は多種多様であり、老若男女誰でも一度は経験する疾患が多いのです。 これまで一般の方へ泌尿器科の疾患および診療内容の啓発を怠ってきたきたわれわれも反省すべき点がございます 。あらゆる病気は早期発見、早期治療が大切です。気になる症状かあれば、今後は気軽に泌尿器科を受診していただきたいと願います。
子どもの包茎 多くは成長で解決
男の子の包茎を気にする親からしばしば相談を受ける事があります。包茎とは、ペニスの先端を包む皮膚の口が狭いため亀頭を完全に露出できない状態をいいます。米国では新生児期または乳児期のうちに包茎の手術(環状切除術)をする風習があり、イスラム教やユダヤ教では宗教上の理由で新生児期に手術(割礼)が行われています。
では「子どもの包茎は早めに治療をしたほうが良いのか」という疑問について考えてみましょう。
本来新生児の陰茎は包茎の形をしており亀頭と包皮がくっついているのが正常で、成長とともに亀頭と包皮が徐々にはがれてきて亀頭が露出するようになります。
亀頭が完全に露出するまでには個人差があり、包茎の割合は生後6カ月で80%、1歳から5歳の幼児では約60%とされています。
思春期(14~15歳ごろ)でも完全に亀頭が露出しない子は少なくありません。以上の事から、子どもの包茎はほとんどが年齢とともに自然に亀頭が露出してくる事が多いため放っておいても良いと思います。しかし次の場合には治療が必要となりますので注意してください。
(1)包皮の癒着が強く、尿が出し辛く排尿の妨げとなる場合。排尿の際に、亀頭と包皮の間に尿がたまってしまい、おちんちんの皮が風船のように膨らんで、おしっこの線も細くなることがあります。
(2)亀頭包皮炎。亀頭部と包皮の間にたまったあかに細菌が繁殖し炎症をおこした状態をいいます。陰茎は赤く腫れあがり、膿(うみ)が出て痛みを伴うようになります。
(3)膀胱(ぼうこう)炎や腎盂(じんう)腎炎等の尿路感染症を起こしやすい場合。
(4)嵌頓(かんとん)包茎を起こす場合。包皮を無理に引っ張って亀頭を出した場合に、包皮がもとに戻らなくなっておちんちんの先が締め付けられ腫れてくることがあります。これを嵌頓包茎といいます。なおこの状態が長く続くと亀頭部の血行が悪くなり組織が壊死(えし)しますので早急にもとに戻してあげなければいけません。
このような場合、かつては手術をしていましたが今ではステロイド軟膏(なんこう)を塗りながら狭くなった包皮を少しずつ広げていく治療(包皮ほんてん指導)が広く行われています。両親が時間をかけて包皮の皮を伸ばし、亀頭を露出させてあげる根気の要る方法ですが多くの例に効果があります。ただしこつがありますので泌尿器科医、小児外科医、小児科医等に相談してみるのが良いでしょう。(名城文雄 なしろハルンクリニック)
沖縄県医師会編[命ぐすい耳ぐすい](967)『2014年12月19日沖縄タイムス掲載」
尿潜血大きな病気心配
先日の健康診断で尿潜血が見られるので、泌尿器科で精密検査を受けるように指摘されました。大きな病気が怖いので検査を受けていません。どのような病気の可能性があるのか、検査は痛くないかなど教えてください。
浦添市男性・51歳
苦痛ない検査、怖がらず受診を
ご心配でしょうが、質問者と同じ症状の方は沢山おります。過度の心配で髄まず、まず泌尿器科を訪ねてください。・最初に尿潜血について説明致します。腎臓や尿管、膀胱などの尿の通り道(これらを尿路といいます)に異常があると、尿中に血液の成分である赤血球が混じってくることがあります。これを尿潜血といいます。次に尿潜血の原因について説明します。
①泌尿器系の腫瘍:腎臓、尿管、膀胱、尿道、前立腺などの尿路に腫瘍ができ、それが尿潜血の原因になることがあります。特に尿潜血陽性者のうち、悪性腫瘍(がん)がみつかる頻度は2~3%といわれており注意が必要です。
②尿路結石:腎臓、尿管、膀胱、尿道に結石がある場合血尿の原因となります。
③尿路の炎症:腎盂腎炎、膀胱炎などの尿路感染症。
④内科的腎疾患:慢性糸球体腎炎など、この場合は蛋白尿を伴うことが多く、放置していると腎機能が悪化していく可能性があります。
⑤その他:高血圧、糖尿病、高尿酸血症、膠原病、白血病など全身疾患の一つの症状として出現する場合もあります。
二番目に、血尿の検査についてです。病院では最初に、尿の詳しい検査(尿一般検査、尿沈査、尿細胞診検査)で血尿や尿蛋白、細菌尿、がん細胞など異常所見の有無を調べ、次に超音波検査で腎臓、膀胱など尿路の形態を調べます。また、尿路結石が疑われる場合にはレントゲン検査も行います。
これらの検査はまったく痛くありませんし、多くの方はここまでの検査で終了します。ただし、強い血尿(肉眼的血尿)や 尿路腫壌が強く疑われる場合に は勝脱鏡検査が必要となります。蹄脱鏡検査の前に麻酔を十分効かせる事で苦痛は緩和できます。 やはり病気は早期発見するととが大事です。冒頭にも述べましたが、検査を恐れることなく、 早めにお近くの医療機関を受診なさる事をお勧めいたします。
結石排尿時につらい痛み
数年前から結石で悩まされております。毎日大量の水を欽み、おしっこするよう心がけています。それでも時々石が下りてきて排尿の時、泣きたくなるほどの痛みがあります。痛みをなくす方法はありますか。
那覇市警備員 50代
特効薬なく、食生活と検診大事
尿路結石とは尿路(腎臓・尿管・鵬船・尿道)に結石を形成したものを言います。結石が見つかった場所で腎結石、尿管結石、跨脱結石、尿道結石と呼びます。尿管結石が原因となって起こるわき腹の激しい痛みを腎疝痛(じんせんつう)と言い、七転八起する程の耐え難い苦痛に加え、冷や汗や吐き気を催すこともあります。相談者の様に排尿の時に起こる痛みは、膀胱結石や尿道結石の症状と思われます。尿中には結石のもととなる多量の塩類が含まれており、飲水量を多くして尿を希釈する事は結石形成の予防に大変有効で1日2リットル以上の飲水を心がけることが大切ですが、炭酸飲料、お茶、アルコールなどはかえって結石形成の原因となりますので多量の摂取には注意してください。よく「沖縄の水は石灰分が多い(硬水)ので結石症の原因となるんでしょうか」と聞かれますが、結石形成の因子はカルシウムだけでなく、マグネシウムなどほかの含有ミネラル成分とのバランスによって決まります。また、日頃から適度の運動を行うことも結石症の予防となります。患者さんにとって尿路結石の成分は異なります。最も頻度の多いシュウ酸カルシウム結石は、ほうれん草、緑茶(玉露)、紅茶、コーヒー、ピーナッツなどのシュウ酸を多く含む食品を多量に摂取すると発症しやすくなります。ただし、これらの食品はカルシウムと同時に摂取すると消化管からの吸収が減少します。
例えばほうれん草は煮干と一緒に、紅茶はミルクティーとして摂取すると良いでしょう。また、尿酸結石は痛風と同じく尿酸が原因で発症します。通風の治療に準じて肉類や魚介類などプリ ン体の多い食事を控えましょう。最後に痛みをなくす方法につい てのご質問に関してですが、通常尿路結石の痛みは突然発症し ますので、痛みをなくする事は難しいと考えます。ですから、尿路結石は再発することが多いので日頃から予防に努めるとともに、クリニックや病院で定期的な検査を行い、結石を確認し たら癌痛が起こる前に積極的な治療を行うことが痛みを軽減する方法として最も良いと患います
男性の更年期障害診察は?
ある新聞の記事で男性にも更年期障害があるということを知りました。私の症状と良く似ているため一度検査を受けたいのですが、どの診療科で相談すれば良いでしょうか。
那覇市会社員・52歳
おもに泌尿器科での診療
更年期障害は男性にも起こる事が知られており、40歳代から60 歳代に多く、早ければ30歳代で発症します。その原因の多くは、 加齢に伴う男性ホルモンの減少で発症すると言われています。男性更年期障害は医学用語で「加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)」といいます。男性ホルモンの大半は精巣で作られますが、加齢による精巣機能の低下で男性ホルモンの産生量が減少し、さらには身体生理機能の低下や社会、家庭でのストレスが拍車をかけLOH症候群が発症します。
40歳代後半から60歳代は人生で最もストレスが多い時期といえます。中間管理職で重い責務を負った状況であり、最近では不況に伴い会社の倒産やリストラに対する不安は大きく、さらには高齢となった親の介護や病気の心配、また自らの子供の進路や学費、住宅ローンのやりくりなどでの悩みも多く、心理的ストレスの要因がLOH症候群と複雑に絡み合っています。そして体の調子が悪い、やる気になれない、眠れない、心に充実感がない、イライラしやすい、性欲減退、勃起不全(ED)などの様々な症状が出現します。その症状からうつ病と間違えられるケースも少なく無いとされています。
女性の場合更年期障害の原因は明確で、閉経により女性ホルモンの分泌が急激に低下することによってほてり、のぼせ、発汗など血管運動に関する症状が出てくるとされています。しかし、男性の場合は閉経のようにはっきりした現象はありませんので、LOH症候群と自覚しにくいのが現状です。LOH症候群の診断は、男性ホルモンであるテストステロン値の測定で行います。診療は泌尿器科で行われることが多いと思いますが、施設によってはLOH症候群の診療を行ってない医療機関もありますので、事前に電話などで確認し、受診されたほうが良いと思います。
精液に血が混じる、怖い病気?
先日、精液に血が混じっているのを見て心配しています。がんなどの大きな病気がないか心配です。また、日常気をつけることがあったら教えてください。
那覇市男性・38歳
多い自然治癒、あまり心配せずに
精液の中に血液が混入する状態を血精液症といいます。それは成人男性には珍しくない疾患で、40歳前後に多く、普通痛みを伴わない事が多いようです。精液は精巣(こう丸)で作られた精子と、主に前立腺や精のう腺などで作られる分泌液から成り立っており、通常は乳白色をしています。血精液症は新鮮な出血の場合真っ赤に見えますが出血後数時間経った場合には茶褐色(鉄さび色)に見える事があります。原因の多くは前立腺や精のう腺、尿道などの細菌感染、アレルギー、あるいは突発性(原因不明)の炎症をおこした結果、発症すると考えられています。まれに前立腺や精のう腺の結核、あるいは悪性腫瘍(がん)などの重大な病気が原因となっていることもあります。特に40歳以上の方の場合は前立腺がんの発生頻度が高くなりますので、前立膿・ がんの血液検査( PSA値測定)を受けられた方が安心です。 血精液症の原因を調べるためには、尿検査や直腸診(肛門から指を入れて前立腺や精のう腺を触診する)、精管や精巣状態の触診、超音波検査など比較的簡単な治療を行います。またCTやMRIなどの精密な検査を追加する場合もあります。
一連の検査で尿や前立腺分泌液に異常のないことが確認できれば、たいてい2~3週間で自然治癒します。炎症が見られた場合には生薬や漢方薬で、細菌感染がある場合には抗菌剤の内服での治療を行います。痛みを伴わない血精液症の場合は、日常生活でさほど神経質になる必要はありません。 ただし新鮮な出血の場合には、出血を助長させないようにアルコールや香辛料など刺激物の摂取を控えたほうが無難です。何日も精液の色が赤みを帯びていたり、茶褐色であれば恥ずかしがらずに、泌尿器科を受診して ください。話は少し脱線しますが、男は一生の間に一升瓶1本分の精液が出ると最後は赤球がコロンと出て「(男性として)打ち止め!」 という俗説がありますが、医学的にはそのような事はありませんのでご安心を。